「内定者との懇親会には、とりあえず若手社員を呼べばよい」
「現場で成果を出している社員なら、会社の魅力を伝えてくれるはず」
このような基準で、内定者イベントに参加する社員を選んでいないでしょうか。
内定者イベントで学生が見ているのは、仕事内容や制度だけではありません。
社員の話し方や接し方から、「この人たちと一緒に働けそうか」「入社後に相談できる人がいるか」を確かめています。
そのため、どの社員を学生と会わせるかによって、会社に対する印象が変わる可能性があります。
人選で重視したいのは、社歴や役職・日頃の営業成績だけではなく、限られた時間の中で相手との距離を縮められる「短期的なコミュニケーション能力」です。
本記事では、内定者イベントに向いている社員の人選ポイントを3つ紹介します。
選定時の確認方法や、当日の運営で気をつけたいことも併せて解説しますので、ぜひご参考ください。
内定者イベントでは「誰と会うか」も見られている
内定後も続く学生の不安
「内定者イベント」とは、内定式・懇親会・座談会・職場見学・先輩社員との交流会など、内定後に企業と学生が接点を持つ取り組みの総称です。
内定を出した後であっても、学生の入社意思が完全に固まっているとは限りません。
他社の選考を続けていたり、仕事内容や人間関係に不安を感じていたりすることもあります。
辞退防止につながる交流機会
マイナビの「2026年卒企業新卒内定状況調査」において、企業が把握している内定辞退理由で最も多かったのは、「より志望度の高い企業から内定が出た」の49.8%でした。
また、株式会社キャリタスが2026年卒の学生924人を対象に行った調査では、93.4%が内定期間中に何らかの不安を感じたと回答しました。
具体的な内容では、「入社後、人間関係がスムーズにいくか」が58.5%で最も多くなっています。
誰に会わせるかが印象を左右する
学生にとって、現場社員との交流は職場の人間関係を知る貴重な機会です。
一方、参加した社員の対応が消極的だったり、会社への不満ばかりを話したりすると、かえって不安を大きくするおそれがあります。
内定者イベントの企画内容を考えるだけでなく、「学生にどのような印象を持ち帰ってほしいか」「その印象を伝えられる社員は誰か」までを考えて人選する必要があります。
人選で重視したい「短期的なコミュニケーション能力」とは
社内評価だけでは判断できない適性
社内で信頼されている社員が、必ずしも内定者イベントに向いているとは限りません。
時間をかけて付き合うことで、誠実さや面倒見の良さが伝わる社員もいます。
しかし、初対面では緊張してほとんど話せない・質問への回答が短い・相手の反応を見ずに説明を続けてしまう場合、1時間程度のイベントでは本来の魅力が十分に伝わらないことがあります。
限られた時間で安心感を届ける力
ここでいう「短期的なコミュニケーション能力」とは、短い時間の中で相手が話しやすい雰囲気をつくり、知りたい情報を分かりやすく伝える力です。
話が上手で場を盛り上げられることだけを指すものではありません。
学生対応で確認したい具体的な行動
「短期的なコミュニケーション能力」には、次のような行動が該当します。
■ 初対面でも自然に挨拶し、緊張を和らげられる
■ 学生の話を遮らず、関心を持って聞ける
■ 質問の意図を確認してから回答できる
■ 自身の経験を短く、具体的に説明できる
■ 相手の表情や反応を見ながら話題を変えられる
■ 会社の良い面と大変な面を、偏りなく伝えられる
社内での評価だけをもとに選ぶのではなく、内定者と接する場でこうした行動ができるかを確認することがポイントです。
人選ポイント1 初対面の相手が話しやすい雰囲気をつくれる
1つ目は、「イベントの序盤で学生の緊張を和らげることができる人」です。
最初の空気づくりが印象を左右する
社員同士であれば普段どおりに話せる人でも、学生を前にすると説明口調になったり、一方的に質問を続けたりすることがあります。
反対に、学生との会話に慣れている社員は、相手が答えやすい話題から入り、少しずつ会話を広げていきます。
特に座談会では、社員の最初の一言がその後の雰囲気を左右します。
「何か質問はありますか?」とだけ聞かれても、学生は何を質問すればよいか迷ってしまいます。
話し始めやすいきっかけを用意する
「今日は選考ではないので、気になることを率直に聞いてください」
「私も入社前は配属先の人間関係が気になっていました」
「仕事の話だけでなく、休日の過ごし方や通勤についてでも大丈夫です」
このように、質問の範囲や自身の経験を示すと、学生は話し始めやすくなります。
また、表情・声の大きさ・姿勢・清潔感も、話しかけやすさに影響します。
容姿を基準にするのではなく、相手に不快感や威圧感を与えない身だしなみと振る舞いができているかを見ます。
実際の行動で適性を見極める
人選する際は、「明るい人」「話し上手な人」といった曖昧な印象ではなく、次の行動ができるかを確認します。
■ 自分から挨拶や自己紹介ができる
■ 学生の名前を呼びながら会話できる
■ 相手の回答に反応し、話題を広げられる
■ 発言が少ない学生にも自然に話を振れる
■ 内輪だけで盛り上がらない
普段から社外の人と接する機会が多い社員や、後輩の相談に乗ることが多い社員は候補になります。
ただし、職種や年齢だけで決めず、実際の振る舞いを見て判断することが必要です。
人選ポイント2 学生の不安や質問を引き出せる
2つ目は、「自分が話すことより、学生の話を聞くことを優先できること」です。
一方的に伝える前に本音を引き出す
内定者イベントでは、会社の魅力をたくさん伝えようとして、社員が話し続けてしまうことがあります。
しかし、学生が抱えている不安が分からなければ、相手に合った情報を伝えることはできません。
たとえば、同じ「入社後が不安」という言葉でも、心配している内容は人によって異なります。
■ 仕事についていけるか不安
■ 職場の人間関係が気になる
■ 配属先や勤務地が分からず落ち着かない
■ 同期とうまく関係を築けるか心配
■ 他社の内定と比較して迷っている
内定者イベントに向いているのは、すぐに自社の魅力を説明する人ではなく、「どの部分が特に気になっていますか?」「そう感じたきっかけはありますか?」と一段深く確認できる人です。
相手に必要な情報を見極める
株式会社キャリタスの同調査では、内定期間中に感じた不安として、「入社後、人間関係がスムーズにいくか」の58.5%に続き、「仕事についていけるのか」「社会人の生活リズムに慣れるのか」がともに57.9%でした。
不安の内容は仕事内容だけでなく、人間関係や生活面にも広がっています。
社員には、自分の経験を話すだけでなく、学生がどの情報を必要としているかを見極める役割があります。
相手の話を最後まで聞けること、分からないことを無理に答えず人事へつなげられることも、人選の基準に含めてください。
不信感につながる対応を避ける
一方、次のような対応には注意が必要です。
■ 「入社すれば分かる」と質問を流す
■ 学生の不安を「考えすぎ」と否定する
■ 自分の価値観を正解として押しつける
■ ほかの学生と比較する
■ 入社を迫るような発言をする
■ 人事や上司に無断で配属、待遇などを約束する
学生の本音を聞くには、「選考は終わったので何でも話してください」と伝えるだけでは不十分です。
否定せずに受け止め、質問の背景まで聞こうとする社員を選ぶことが大切です。
人選ポイント3 自分の経験を短く具体的に伝えられる
3つ目は、「限られた時間で、学生が働く姿を想像できる話を伝えられること」です。
抽象的な言葉だけでは違いが伝わらない
「風通しの良い会社です」
「若手が活躍しています」
「成長できる環境があります」
こうした表現だけでは、学生は自社と他社の違いを判断できません。
伝えたい魅力が同じでも、具体的な経験を添えると受け取り方が変わります。
たとえば、「若手にも仕事を任せる会社です」と説明するだけでなく、「入社2年目に既存顧客への提案を任され、最初の3カ月は先輩が商談に同席した」と話せば、任される時期や支援体制まで伝わります。
自分の言葉で語れる内容を確認する
人選では、次のような話題を自分の言葉で説明できるかを見ます。
■ 入社を決めた理由
■ 入社前に不安だったこと
■ 入社後に感じたギャップ
■ 担当している仕事の具体的な流れ
■ 失敗したときに受けた支援
■ 仕事の面白さと大変さ
■ 職場での社員同士の関わり方
■ 若手社員の一日の過ごし方
会社の良い面だけを並べる必要はありません。
仕事の難しさや入社後のギャップも伝えたうえで、どのように乗り越えたのかを説明できる社員のほうが、話に納得感が生まれます。
率直さと情報管理のバランスを取る
ただし、率直さと無制限な暴露は異なります。
取引先や従業員の個人情報・社外秘の数値・特定の社員への批判などは話してはいけません。
どこまで伝えてよいかは、事前に人事から共有しておきます。
株式会社キャリタスの調査では、「社員を交えた懇親会(対面)」を経験した学生は56.3%で、そのうち54.4%が入社意欲の高まりを回答しました。
ただし、この結果は社員との懇親会と入社意欲の因果関係を証明するものではありません。
それでも、社員との接点が学生の判断材料の一つになっていることは読み取れます。
社歴や役職だけで選ばない
目的に合わせて参加社員を組み合わせる
内定者イベントの参加社員として、若手社員・配属予定部署の上司・採用責任者・経営者などを候補にする企業もあります。
それぞれ伝えられる内容が異なるため、イベントの目的に合わせて組み合わせるのが現実的です。
若手社員は、入社後の生活や新人時代の経験を学生に近い目線で話せます。
中堅社員や管理職は、仕事の広がりや育成方針・将来のキャリアについて説明しやすい立場です。
経営者は、会社の方向性や事業に対する考えを自分の言葉で伝えられます。
役職や年齢だけで決めない
ただし、「学生と年齢が近いから」「役職が高いから」という理由だけで決めると、イベントの目的と合わない場合があります。
たとえば、学生の不安を聞く座談会に、説明が中心になりやすい管理職だけを配置すると、学生が遠慮してしまうかもしれません。
一方、事業の将来性を伝えるイベントを若手社員だけに任せると、回答できる範囲が限られます。
持ち帰ってほしい情報から逆算する
誰を呼ぶか考えると同時に、内定者に持ち帰ってほしい情報を整理することも大切です。
■ 職場の雰囲気を伝えたい場合は、若手社員や配属予定部署の社員
■ 仕事内容への理解を深めたい場合は、現場の担当者やリーダー
■ 育成やキャリアの不安を解消したい場合は、上司や人事担当者
■ 会社の将来像を伝えたい場合は、経営者や事業責任者
そのうえで、候補者の中から短期的なコミュニケーション能力の有無を確認します。
依頼前にロールプレイで確認する
事前確認で当日の不安を減らす
日頃の印象だけでは、内定者イベントへの向き不向きを正確に判断できません。
候補となる社員には、10分程度のロールプレイを実施する方法があります。
人事担当者が学生役になり、「配属先が分からず不安です」「仕事についていけるか心配です」といった質問をします。
回答内容だけでなく、話の聞き方や表情・質問への対応も確認してください。
会話の進め方を具体的に見る
確認項目は、次のように設定できます。
■ 最初の数分で話しやすい雰囲気をつくれているか
■ 学生の話を途中で遮っていないか
■ 質問の意図を確認しているか
■ 自身の経験を具体的に話しているか
■ 一度の回答が長くなりすぎていないか
■ 分からないことを曖昧に答えていないか
■ 会社の良い面だけでなく、注意点も説明できるか
■ 清潔感のある身だしなみになっているか
点数をつけて社員同士を競わせることが目的ではありません。
事前に得意な部分と準備が必要な部分を把握し、安心して当日を迎えるために行います。
一人に任せきらない体制をつくる
会話を広げるのが得意でも制度の説明に不安がある社員には、人事担当者を同席させるといった対応も可能です。
一人ですべてを担える社員を探すのではなく、複数人の強みを組み合わせる考え方も必要です。
参加社員には事前説明を行う
当日のばらつきを防ぐ事前共有
適任者を選んでも、目的や役割を伝えないまま当日を迎えると、社員ごとに話す内容がばらつきます。
事前説明では、少なくとも次の内容を共有します。
■ イベントの目的
■ 参加する内定者の人数や状況
■ 社員に期待する役割
■ 当日の進行と持ち時間
■ 内定者に伝えたい内容
■ 触れてはいけない情報
■ 待遇や配属に関する質問への対応方法
■ 困ったときの人事への引き継ぎ方
台本ではなく要点をそろえる
質問例も事前に渡しておくと、社員が準備しやすくなります。
ただし、回答を台本として暗記させると、会話が不自然になりがちです。
要点だけをそろえ、具体的な経験は社員本人の言葉で話してもらいます。
説得ではなく判断材料を届ける
また、「内定辞退を防いでほしい」とだけ伝えると、社員が説得しなければならないと考えるかもしれません。
目的は入社を迫ることではなく、学生が判断するために必要な情報を届け、不安や疑問を確認することだと共有してください。
イベント後は参加人数だけで評価しない
参加率だけでなく受け止め方を見る
内定者イベントの実施後は、参加率だけでなく、社員との交流が学生にどう受け止められたかを確認します。
アンケートでは、次の項目を聞くと改善に活用できます。
■ 社員に質問しやすかったか
■ 仕事内容への理解が深まったか
■ 職場の雰囲気を想像できたか
■ 入社に関する不安が軽くなったか
■ さらに話を聞きたい社員や部署はあるか
■ 回答が分かりにくかった質問はあるか
志望度や不安の変化を継続して追う
内定承諾前のイベントであれば、イベント前後の志望度や不安の変化も確認します。
ただし、イベント直後の満足度が高くても、それだけで内定辞退が防げたとは判断できません。
内定承諾率・イベント後の辞退率・個別面談の希望数などを継続して見ていく必要があります。
自由記述から次回の改善点を探る
自由記述に「質問しやすかった」「実際の働き方が分かった」といった回答が多ければ、人選や事前準備が機能した可能性があります。
反対に、「社員によって説明が違った」「聞きたいことを聞けなかった」という声があれば、配置や進行を見直します。
【まとめ】
内定者イベントの人選では、社歴・役職・業績だけでなく、短い時間で学生との関係をつくれるかを見ることがポイントです。
選定基準は、次の3つに整理できます。
1.初対面の相手が話しやすい雰囲気をつくれる
2.学生の不安や質問を引き出せる
3.自分の経験を短く具体的に伝えられる
日頃は時間をかけて信頼関係を築くタイプの社員も、社内では欠かせない存在です。
ただし、限られた時間で印象が決まる内定者イベントでは、その魅力が伝わりきらない場合があります。
イベントの目的に合った社員を配置することが、会社と学生の双方にとって納得できる時間につながります。
まずは、これまで慣例で参加社員を決めていなかったかを振り返り、候補者との短いロールプレイから始めてみてください。
人事担当者だけで企画・社員調整・事前説明・当日運営まで対応することが難しい場合は、採用代行会社などへ運営の一部を相談する方法もあります。
< 出典 >
株式会社キャリタス/キャリタスリサーチ
「調査データで見る『入社に向けた内定者フォロー』-2026年卒調査-」
学生調査:
2025年10月2日~10月9日(回答数:1,040人)
2026年2月17日~3月3日(回答数:924人)
企業調査:
2025年9月29日~10月8日(回答数:1,219社)
2026年1月26日~2月5日(回答数:1,064社)
株式会社マイナビ
「2026年卒企業新卒内定状況調査」
調査期間:
2025年9月5日~10月3日(回答数:1,810社)